遺伝分野における最先端の話題であるエピジェネティクスとは何か?

遺伝分野における最先端の話題であるエピジェネティクスとは何か?

エピジェネティクスという言葉は聞きなれないかもしれません。

一般的に人の遺伝情報は生涯変化することはないといわれています。

私たちの遺伝子は変えられないということになるのですが、ここで疑問に思うかもしれません。

一卵性の双子は同じ遺伝情報を持っているはずなのになぜ顔は似ているが全く同じではないのか?性格や体格がなぜ違うのか?病気のなりやすさが違うのか?不思議に思いませんか?このような違いを生み出す現象にエピジェネティクスが関わっています。

では、エピジェネティクスとは一体何なのかということを分かり易く説明していきたいと思います。

DNAの塩基配列は生涯変化しないが目印は変化する

細胞一つ一つが持っている遺伝情報はA、T、G、Cの4つの文字情報(DNA)が様々な並び方で並ぶことによって出来ており、どの細胞も同じ遺伝情報を持っています。

この4つの文字の一つ一つのことを塩基と呼び4つの文字が並んだものが塩基配列ということになります。

この遺伝情報そのものは生涯変化することはないのですが、塩基についている目印は生活環境や食生活、老化などの様々な要因によって変化することが知られています。

次の章ではこの目印について詳しく説明したいと思います。

目印の違いがタンパク質の生産に影響を与える

まず、人のからだの成り立ちについて簡単に説明します。

人のからだは約37兆個の細胞から作れており、その細胞の中にはDNAが紐状に繋がって折りたたまれた状態である染色体が存在しています。

染色体の中ではヒストンと呼ばれるタンパク質に約150塩基のDNAが巻き付いており、それが複数、数珠状に繋がっているイメージです。

このようにコンパクトにお折りたたまれることで染色体という状態を形成しています。

この染色体の中には体の設計図である遺伝子が存在しています。

はじめにどの細胞も同じ遺伝情報を持っているとお話しました。

しかし、細胞によってどの遺伝子(設計図)を使用するのか、使用する頻度が異なることが分かっています。

そのことによって作られるタンパク質や量に違いが生じ、同じ遺伝情報をもっている細胞のはずなのにある細胞は皮膚になり、またある細胞は筋肉になるといった違いが生まれてきます。

どうしてそのような現象が起こるかというと、それが目印の存在になります。

この目印が同じ情報を持った細胞の運命を変えるのです。

次に目印とは一体何なのか、どのような役割をしているのかについて説明していきます。

目印の種類と役割

目印にはDNAにつく目印(DNAメチル化)とヒストンにつく目印(ヒストン修飾)の2つが知られています。

DNAにつく目印(DNAメチル化)

遺伝情報は4つの文字の並びで構成されていると話をしました。その並びの中でCとGが並んだ配列(CG)の部分でCに-CH3という分子(メチル基)がつくことをDNAメチル化と呼びます。

例えば、遺伝子を使用するかどうかを調整している配列がメチル化されると、その遺伝子は使用できなくなったり、使用する頻度が低下したりします(下記図)。

逆に、遺伝子の使用が抑制されている場合、メチル化が解除されると遺伝子を再び使用することが出来るようになります。

つまり、メチル化のオン・オフによって元の状態に戻したり、再び変化させたり可変であるということです。

これが最初にお話しした目印は変化するということです。

本来、遺伝子を使用する必要がある場所においてメチル化が起こったり、逆に遺伝子を使用する必要がない場所でメチル化が解除されるなど本来とは逆のパターンになることで疾患に影響があるということから、エピジェネティクスの研究が広く行われています。

ヒストンにつく目印(ヒストン修飾)

ヒストンは先ほど説明しました、DNAが巻き付いているタンパク質のことです。

このヒストンにメチル基やアセチル基といった分子が結合することをヒストン修飾といいます。

このような分子が結合することで、巻き付いているDNAが緩んだり、しっかりと巻き付いたり、構造が変化することが知られています。

このような構造の変化が遺伝子を使用できる状況になるのか使用できない状況になるのかに影響を与えます。

一般的にヒストンのメチル化は遺伝子の使用のオン・オフどちらにも働き、ヒストンのアセチル化は遺伝子の使用のオンに働くことが知られています。

まとめ

エピジェネティクとはどのような遺伝子がいつ、どのタイミングで、どれくらい使われるかを研究する学問のことです。

重要なことはDNA配列(遺伝情報)そのものは変化しないという点です。

近年、エピジェネティクの研究が進み、メチル化異常が疾患と関連していることがわかってきました、その中でがんと関連が広く研究されています。

現在まで、様々ながんで、多くのがん抑制遺伝子がDNAメチル化異常により使えない状態になっていることが報告されています。

次回の記事ではエピジェネティクの中で代表されるインプリンティングという現象について説明したいと思います。