がんゲノム医療におけるマイクロサテライト不安定性検査について説明します

がんゲノム医療におけるマイクロサテライト不安定性検査について説明します

免疫の機能を抑制する受容体「PD-1」の発見でノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑先生でご存じかも知れませんが、免疫チェックポイント阻害剤というものがあります。

マイクロサテライト不安定性(MSI)検査は免疫チェックポイント阻害剤の効果を判断する検査となります。検査結果によってキイトルーダ(ペムブロリズマブ)という免疫チェックポイント阻害剤の薬が保険適用で使用できます。

免疫チェックポイント阻害剤に関してはウェブで検索頂ければ情報は沢山ありますので、今回はマイクロサテライト不安定性検査について詳しく説明をしていきたいと思います。

マイクロサテライトとは

ヒトのからだを構成している細胞の中にはA、T、C、Gからなる約30億の遺伝情報(ゲノム)を持っています。その中にはATATATATCATCATCなどのようにATATCといった数個の文字情報が数十~数百回繰り返されて並んでいる場所が人のゲノム上には数十万個所以上存在しています。

同じ人であれば皮膚でも頬の粘膜でも様々な組織でも正常な細胞であれば基本的にはどの細胞も繰り返されている場所の繰り返し数が同じです。しかし人によっては長さが異なることがあることがあります。その違いを利用して親子鑑定や固体識別などに活用されています。

正常細胞とがん細胞の繰返しの違い

なぜマイクロサテライトを調べるのか

先ほど正常な細胞はマイクロサテライトの繰り返しの長さが一定とお話しましたが、がん化した細胞では繰り返しの長さが変化していることがあります。

大腸がんを例に挙げると大腸でがんができた組織ではある場所のマイクロサテライトが10回繰り返されているのに頬の粘膜の細胞では8回と異なることです。つまり正常な組織(細胞)と腫瘍組織のマイクロサテライトを比較することでゲノムに変化が起こっているかを調べることが出来ます。ではなぜ繰り返しの数が変化するのでしょうか?

がん(腫瘍)細胞はなぜマイクロサテライトに変化が起こるのか

ヒトの細胞は、細胞分裂を行うときに同じ遺伝情報をコピーする必要があります。コピーの際にミスをすることもあり、ミスマッチ修復機構というものが働いてそのミスを修復してくれます。

その機能の担い手としてMLH1、MLH2などのミスマッチ修復酵素というものが知られています。これらの修復機構に関係する遺伝子に変化が起こると上手くコピーミスを修復できなくなります。そうすると他の様々な遺伝子にも影響を与え、細胞ががん化する可能性があります。

マイクロサテライト領域は繰り返しの配列なため、想像して頂くと分かり易いかと思いますが同じ文字が何度も繰り返されていると間違えやすいですよね。つまり、ただでさえ間違えやすい場所なのに修復機構が上手く働かなくなることでよりマイクロサテライト領域のコピーを作る時に間違えやすくなるのです。

この状況をマイクロサテライト不安定性(MSI:microsatellite Instability)と呼び、ミスマッチ修復機構に関する遺伝子の変化を検出する目印(バイオマーカー)として利用されています。

このミスマッチ修復機構に関係する遺伝子の変化で生じる遺伝性の病気がリンチ症候群と言われる大腸がんです。

どういった検査をするの

検査は5種類のマーカーを使用して腫瘍組織と正常組織の5つのマイクロサテライトの場所の繰り返し配列の長さを比較します。繰り返しの長さをどのように調べるのかは詳しくは説明しませんが5種類のマイクロサテライトマーカーを使用して反復配列を含む領域をPCR法で増幅し、マイクロサテライト配列の反復回数を比較する検査です。

MSIの結果について

5箇所の繰り返し領域を調べ、正常組織と腫瘍組織で何か所繰り返し数の変化があるかを比較することで判断します。

2か所以上変化があった場合MSI-H1か所以上変化があった場合MSI-L変化している所がなかった場合MSSという判定となります。

MSI-Hという結果であると免疫チェックポイント阻害剤であるペムブロリズマブ(キイトルーダ)というお薬が保険適応で使用可能となります。つまり遺伝子を調べることで予め薬の効果が見込めるかを判断する検査の一つです。

どのようなケースの時にMSI検査を受けるの?

ミスマッチ修復機構に関係する遺伝子の変化で生じる遺伝性の病気としてリンチ症候群があると説明しました。大腸癌は家族の中で多発することが比較的多く、大腸癌全体の~5%程度が遺伝性大腸癌と考えられています。リンチ症候群は遺伝性大腸癌の中でもっとも頻度が高く、大腸癌全体の2~4%を占めるとされています。

リンチ症候群を拾上げる方法としてMSI検査が行われます。図に示すようにリンチ症候群のスクリーニングには2つの方法があります。

一つ目は従来の方法で、アムステルダム基準Ⅱ、改訂ベセスダガイドラインという基準に合致するかを調べる一次スクリーニングを行った後、疑わしい場合に2次スクリーニングとしてMSI検査を実施する場合と最初から大腸がんの人全員にMSI検査をしましょうというユニバーサルスクリーニングという方法の時に実施します。