遺伝子の変化とがんの治療薬(遺伝性の乳がん・卵巣がんに対する薬剤)
がんに対する治療は手術療法、化学療法(抗がん剤など)、放射線治療方の3つが標準治療として行われています。
例えば乳がんはステージやがんの種類によって異なるのですが外科的な手術、放射線治療、抗がん剤やホルモン療法などが行われています。
乳がん患者さんの7~10%位の方は遺伝性と言われています。その中で3~5%はBRCA1、BRCA2という遺伝子に変化が見られる遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndrome:HBOC)と言われ卵巣がんも関係しています。
このBRCA1、BRCA2という遺伝子にがんの発症と関わる変化が見られたときに使用できるリムパーザ(オラパリブ)が2019年6月に登場しました。
今回はこのお薬についてお話したいと思います。
リムパーザは誰でも使えるの?
リムパーザが保険適用で使えるかはBRACAnalysis診断システムと呼ばれる遺伝子の検査を受ける必要があります。
BRCA1、BRCA2遺伝子に病気の発症に関係する変化が見つかった場合に適用可能となります。
この検査は採血によって生殖細胞の遺伝子の変化を調べる検査です。
ご自身がリムパーザを使用できるかどうかだけでなく、家族や子供への影響(同じ体質を持っている可能性)があります。
遺伝に関係することから検査を受ける前に遺伝カウンセリングを受け、納得した上で検査を受けることが大切です。
リムパーザの効能・効果
リムパーザの効能・効果としては以下3つがあります。一つずつ説明していきます。
○BRCA遺伝子変異陽性の卵巣がんにおける初回化学療法後の維持療法
○白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣がんにおける維持療法
○がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は
再発乳がん
BRCA遺伝子変異陽性の卵巣がんにおける初回化学療法後の維持療法
卵巣がんの治療は基本的には手術となります。白金(プラチナ)系薬剤のカルボプラチンと、タキサン系薬剤を併用した抗がん剤治療を4~5カ月程行います。
しかし、治療を行っても再発してしまう患者さんもいます。
リムパーザは初回の白金系抗がん剤治療後の維持治療として投与することで再発を抑えることが期待できます。
白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣がんにおける維持療法
リムパーザはプラチナ感受性再発卵巣がんに対し、カルボプラチンを含んだ抗がん剤を行い、治療効果が得られた卵巣がんに対し、その後もよい状態を維持する効果が期待されています。
がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳がん
乳がんはがんの性質のよって治療方法が変わってきます。
●ホルモン陽性の乳がん → ホルモン療法
●HER2陽性の乳がん → ハーセプチン
●ホルモンもHER2も陰性の乳がん(トリプルネガティブ乳がん)
→ 抗がん剤。
このリムパーザBRCA遺伝子に変異のあるHER2陰性(ホルモン陽性もしくは陰性)の場合に使用できます。
リムパーザの作用
ヒトのDNAは損傷を受けると直そうとする仕組みが備わっています。
損傷には2種類あります(細かく言うともっと種類があります)。
DNAは2本の遺伝暗号の鎖から出来ており、鎖が1本だけ切れる場合と2本切れる場合があります。
鎖が1本だけ切れた場合はPARPと呼ばれるタンパク質が鎖の損傷を直す司令塔の役割をしています。
鎖が2本切れた場合はBRCA1、 BRCA2遺伝子からつくられるBRCAタンパク質が鎖の損傷を直す司令塔の役割をします。
この修復メカニズムによって、DNAが何らかの損傷を受けても修復し、異常な細胞が出来るのを防いでいます。
リムパーザは鎖が1本だけ切れた場合のPARPの働きを阻害するお薬です。
修復メカニズムを阻害したら大変なことになるのではと思いますよね。
リムパーザのお薬が使えるということはBRCA遺伝子に変化があり、うまく働いていないということですよね。
PARPの働きを阻害してやるとどうなるかというと1本鎖の損傷も2本鎖の損傷も修復できなくなるという状況になるのです。
つまり、がん細胞も自分を修復すること出来なくなり死んでしまうということです。
これがリムパーザががんに効くメカニズムです。でもちょっと待てよと思いますよね。
そうです普通の細胞も修復機能が働かなくなるわけです。
つまり、副作用がないわけではないのです。現在報告されている副作用は吐き気、貧血、疲労・無力症、嘔吐、味覚異常、下痢です。
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