新しい遺伝のリスク評価法であるポリジェニックリスクスコアとは
疾患の多くは一つの遺伝子だけで原因を説明することは容易ではありません。人には2万~3万の遺伝子が存在することが知られており、病気の発症には、それら遺伝子が複数、複雑に絡みあっています。
一般的に生活習慣病は複数の遺伝子と環境要因が関係している多因子疾患です。そのため、正確にあなたは○○病のリスクがこれだけありますと予測することは大変困難です。
そこで、ポリジェニック(英語で多因子のこと)つまり複数の遺伝子変化のリスクを総合的に評価して病気のリスクをスコア化しようとしているのがポリジェニックリスクスコアとなります。
多因子疾患では一つ一つの遺伝子変化が病気へ与える影響が小さい
同じ人間であっても個々の人が持っている遺伝情報を比較すると、0.1%程度、遺伝情報が異なっていることが知られています。
このたった0.1%の違いが人の個性や体質の違いを生み出す要因であり、病気の素因となることもあります。これら違いが生まれ持った遺伝子変化ということになります。
遺伝子変化の中で一般の人が誰でも持っているような変化もあれば、逆に極めて稀にしか持っていないような変化もあります。
遺伝子変化はすべてが病気に関係しているわけではなく、病気に関わる変化と関係しない変化があります。
病気の発症に関与する変化を病的な変化(病的バリアント)と呼びます。
一般の人が誰でも持っているような遺伝子変化は病気へ与える影響が小さいと考えられ、稀な遺伝子変化は病気へ与える影響が大きいと考えられます。
つまり、広い意味で前者が多因子疾患であり後者が単一遺伝子疾患といえます。
複数の遺伝子変化を総合的に評価すると
単一遺伝子疾患の原因となる遺伝子は病気の浸透率(ある遺伝子に病的な変化を持っている集団が病気を発症する割合)が高いため、特定の遺伝子変化の有無によって病気の発症が予測されます。
そのため、単一遺伝子疾患の診断には遺伝子検査が非常に重要となってきます。
一方で大半の頻度の高いような疾患は多因子疾患です。
一つ一つの遺伝子変化が病気の発症へ与える影響が小さいため、遺伝子変化が一つみつかっただけでは病気の発症を予測したり、予防に利用できる情報とはなりにくいです。
そこで、一つ一つの遺伝子変化の組合せを総合的に評価しスコア化したら、この複雑な多因子疾患のリスク予測に役立つツールになるのではないかという発想です。
つまり、100問1点のテストがあったときに、一問一問に焦点を当てても、その人の能力を測ることは難しいですが、100問の合計点で評価することでその人の全体的な能力は推定できますよね。
個人の遺伝的素因を同じように評価することが出来るのではないかと期待されています。
ポリジェニックリスクスコアはどのように活用できるのか
現在、ポリジェニックリスクスコアは幅広く研究や検証がされており、将来的に臨床医療への活用が期待されています。
ポリジェニックリスクスコアは以下のような有用性があると期待されています。
治療への介入
ポリジェニックリスクスコアはゲノム情報をもとに個別化医療として、個人に適した医療を提供するツールとなることが期待されています。
例えば、冠状動脈疾患(心臓に血液を供給する冠動脈で血液の流れが悪くなり、心臓に障害が起こる病気の総称)において疾患を引き起こす可能性がある所見があったとしても、必ずしも臨床評価だけでは捉えきれない問題があったりします。
その際、冠状動脈疾患のリスク群であるにも関わらず、治療薬を導入するきっかけを失ったまま重篤な合併症にいたる可能性があります。
そこで、ポリジェニックリスクスコアと臨床的な所見を組み合わせることで、冠状動脈疾患のリスク群の方を拾い上げ、治療の選択へ繋げることが出来る可能性があります。
疾患のスクリーニング
ポリジェニックリスクスコアを算出することで、疾患のリスクを予測することが可能となり健診を開始する指標になるかもしれません。
乳がんを例にすると、ポリジェニックリスクスコアを低い群、中程度の群、高い群に分けたとします。
高い群の上位20%の人は30歳からマンモグラフィーをしましょうとか、ポリジェニックリスクスコアの閾値を決めることで○○歳からこういった健診をしましょうという提案が可能になるかもしれません。
予防分野での活用
多因子疾患は遺伝的な要因だけでなくライフスタイルなど環境的な要因も関係しています。
ポリジェニックリスクスコアで何かの疾患のリスクが高いと判明した場合、未然にライフスタイルを見直すなど疾患
発症の要因を避けることで予防に繋がることが期待されます。
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