最近よく言葉は聞くけどいまいちよくわからないゲノム編集について説明します
ひと昔は遺伝子組換えという言葉がテレビやニュースで流れ、本当に安全なのということが話題になっていましたね。
現在では更に技術が進歩しゲノム編集技術というものが注目され多くの研究がされています。2020年のノーベル化学賞に、生物の遺伝情報を自在に書き換えることができる「ゲノム編集」の新たな手法を開発した方が選ばれました。
今回はこの「ゲノム編集」について解説したいと思います。
そもそも遺伝子組換えとゲノム編集な何が違うの?
まず遺伝子組換えですが、外から新たな遺伝子を入れてもともと持っていない新しい性質を付け加える技術です。
例えば、特定の除草剤に抵抗性を持つ性質を付け加えることで、その除草剤が散布されても枯れずに生き延びる大豆や、害虫に抵抗性を持たせたトマト、果肉が変色しないリンゴなどさまざまな形質を持つ遺伝子組換え農産物が世界では栽培されています。
ただし、それは外から新たな遺伝子を入れた作物であるため、安全性をきちんと確認する必要があります。
これに対してゲノム編集はもともと生物が持っている遺伝子を改変し性質を変える技術です。
高ギャバ・トマトを例にすると、ギャバの生成を自己抑制する働きを持つDNAを切断し働かなくすることによって、ギャバをたくさん含んだトマトができるようになります。
人で言えば、病気の原因となる遺伝子変化をゲノム編集技術で変えることで病気を治すことに繋がる可能性もあります。
ゲノム編集技術について
ゲノム編集と言っても同じ方法で行ってきたわけではありません。
これまでは、着目した遺伝子を改変するためにZFN(zinc finger nuclease)やTALEN(transcription activator-like effector nuclease)という手法を用いていました。
ただ労力・費用・時間がかかることが問題とされていました。
このような問題点を改善し得る手法として近年盛んに研究に用いられている技術が、ノーベル賞を受賞した「CRISPR-Cas9」(クリスパー・キャスナイン)という技術になります。
少し難しいかもしれませんがCRISPR-Cas9がどういうものなのかを説明します。
CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)
CRISPR-Casは細菌や古細菌において、ウイルスなどによる侵入を排除し、自身の命を守るための獲得免疫のシステムとして知られていました。
つまり、外から侵入してきたウイルス(DNAやRNA)を察知して切り刻んでしまおうというシステムです。
特定のウイルスを見つける仕組みと切り刻む仕組みをうまく活用して、DNAの狙った場所で正確に切断することでゲノム情報を自由に編集できないかということで考えられたのがCRISPR-Cas9とい技術なのです。
CRISPR-Cas9を説明する上でキャスナインとガイドRNAという物質が重要な登場人物の説明が必要ですので解説していきます。
まずキャスナインはDNAを切断するハサミのような役割をもったタンパク質です。ガイドRNAは標的のDNA(編集したいDNA)のところまで行きくっつくことができます。ガイドRNAはキャスナインとも結合することができます。
ここからはCRISPR-Cas9でどのようにゲノム編集をするのかを説明します。まずは、目的とするDNAに結合できるガイドRNAを作成します。このガイドRNAとキャスナインが目的のDNAに結合することで目的のDNAを切断することができます。
二つの修復
次に切断されて箇所はどのように修復されるかということを説明します。修復には二つの方法があります。
一つ目は何も手を加えなかった場合は切断箇所がそのまま修復されます。
ただし、修復する際に修復ミスが起こり標的としたDNAが含まれている遺伝子の機能を破壊することができます。
これを利用すると植物の品種改良などが短い期間で行えるようになります。
これまでは偶然遺伝子に変化が起こる突然変異によって品種改良をしていましたが、目的の遺伝子を直接編集することができるようになります。
二つ目は、正常なDNA断片を入れることで正常なDNA断片をもとに修復を行うことができます。
これを利用すると、特定の遺伝子を切断した部分に入れることができます。
つまり、遺伝子の一部に病気の原因となる変化があった場合、その部分に正常な遺伝子断片を入れてあげることで正常な遺伝子に戻すことが可能となります。
そんなことができたらすべての病気が治る、夢の技術だと思われるかもしれません。
ですので、CRISPR-Cas9の問題点についても触れていきたいと思います。
CRISPR-Cas9の問題点
1.オフターゲット効果
CRISPR-Cas9システムは、標的とするDNA配列と似たガイドRNAを作成しますが、似た配列が他の遺伝子にも存在していた場合に標的領域以外でゲノムの切断が起こってしまうことをオフターゲット作用と呼びます。
つまり、現時点では100%の正確性を持っているわけではないということです。
2.安全性や倫理的問題
皆さんも耳にしたことがあるかもしれませんが、2018年12月に中国でゲノム編集を施した双子が誕生したことがニュースになりました。
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染しないように、という名目でゲノムの編集を行ったようですが、その編集によって短命になるリスクが高くなるといった報告も別グループからされています。
これに限らず様々な疾患の治療法開発等のためにモデル生物を用いた検証が行われていますが、ヒトでも全く同じような影響が出るのかどうかは誰にも分かりません。
最大の倫理的問題はヒト受精卵に対するゲノム編集です。
遺伝子性疾患の原因となる遺伝子を取り除くだけでなく、知能や外見など、好ましい特質を持たせることができるようになるかもしれません。
受精卵に対しては、まだ100%の確率で特定の場所の遺伝子を編集することが難しく、生まれてくる子供がなんらかの異常を持ってしまう可能性があり、今はまだ現実的ではなく、海外でもガイドラインが策定されています。
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