少しずつ分かってきた認知症とミトコンドリアの関係性について紹介します

少しずつ分かってきた認知症とミトコンドリアの関係性について紹介します

今回はミトコンドリアの機能低下とアルツハイマー型認知症の症状悪化について報告された研究

を紹介したいと思います。

ミトコンドリアは、主には体に必要なエネルギーの生産・供給を行っていますが、脂質や核酸代謝

、カルシウム濃度調整、アポトーシス(その細胞が存在している組織をより良い状態に保つため、

細胞自体に組込まれた細胞が死ぬプログラム)など細胞の生存に必須の役割をになっています。

ミトコンドリアにつては以前、詳しく解説した記事がありますので是非読んでみてください。

ミトコンドリアの記事はここをクリック

ミトコンドリアとアルツハイマー型認知症の関係


細胞の中でミトコンドリアは単独で働いているわけではなく、様々な物質や情報を交換しながら

働いています。

人と同じですね。

ミトコンドリアは物質や情報を交換する手段として自身を覆っている膜を利用しています。

小胞体と呼ばれる情報や物質を膜に包み込んだ物質とミトコンドリアの膜が接触することで

ネットワークが作られます。

イメージしてもらうとすると、海でミトコンドリアという船と小胞体という船がドッキングして

荷物や人の移動を行うようなものです。

しかし、波のある海で船同士が近づくためには足場のようなものが必要になります。

ミトコンドリアと小胞体においても接近するためには足場となる物質(MAM)が必要になります。

アルツハイマー患者の死後の脳においてこの足場形成の増加が発見されたことを契機として、

アルツハイマー病とMAMの関連性が着目されました。

ミトコンドリアユビキチンリガーゼ(MITOL)がアミロイドβの生成を抑制する。


先ほど説明した足場となる物質(MAM)と一緒に働く新たなタンパク質として

ミトコンドリアユビキチンリガーゼ(MITOL)がアルツハイマー型認知症の原因とされている

アミロイドβの生成を抑えることが報告されています。

アミロイドβとはアルツハイマー型認知症の原因の一つとして考えられている物質です。

アルツハイマー型認知症になる数十年も前から、アミロイドβが脳に徐々に蓄積し、脳の機能

を低下させると考えられています。

話を元に戻すと、近年、アルツハイマー病患者と健常者を対象として、アルツハイマー病の

原因遺伝子を探る大規模なスクリーニングの結果、アルツハイマー病患者でMITOLの発現が

顕著に低下していることが見出されました。

そこで、MITOLを欠損させたアルツハイマー病モデルマウスを作製し、MITOLの低下によって

ミトコンドリアが正常に機能しない時にアルツハイマー病態がどのように変化するのかを調べました。

その結果、MITOLを欠損したアルツハイマー病モデルマウスでは通常のアルツハイマー病モデル

マウスと比べて、ミトコンドリアの形態や内膜構造に顕著な異常やミトコンドリアのエネルギー

産生の低下が見られ、ミトコンドリアの機能が低下していることがわかりました。

さらに、MITOLを欠損したアルツハイマー病モデルマウスでは、短期記憶が低下し、著しい

認知機能の悪化も認められました。

このことはアルツハイマー病でのMITOLの減少が、病態の悪化につながることを示唆しています。

余談(なぜMITOLが欠損すると認知機能が低下するのか)

アルツハイマー病はアミロイドβが脳に蓄積することで脳に影響を与えると考えられています。

MITOLが欠損するとアミロイドβの蓄積が抑えられるのですが、一方で蓄積しにくい毒性の

高いアミロイドβが作り出されることが示されています。

つまり、毒性の高いアミロイドβが産生され、神経細胞死を誘導することが明らかになりました。

このような研究が、早く薬の開発に繋がってくれることを切に願うばかりです。


今回報告した研究の詳細のリンクを記載しておきます。
https://www.amed.go.jp/news/release_20210212-03.html